笑った顔も。
言葉の端々のくだけた感じも。

そこら辺の大学生にいそうな明るめの茶髪も。

かっちりと着こなされたスーツとはどこかちぐはぐだった。


「初めまして。今日から408号室に引っ越してきた栗原です。」


”くりはら”

お隣さんの名前が初めて分かった瞬間。


「あ、407号室の早坂です。よろしくお願いします。」


名字だけの紹介にあわせてみたけど、
なんだか栗原さんの挨拶よりも堅苦しくなってしまった。

そろそろあたしの人見知りレーダーが限界と伝えている。


「それじゃあ予定もあるので、挨拶はこの辺で。」


相手も潮時と感じたのだろう。
それとも、あたしのレーダーにきずいたとか?


栗原さんは笑顔でそう言うと軽く会釈して、
また空の段ボールを抱え、あたしの横を通り過ぎた。


香水の甘い匂いに混じって、
煙草のほろ苦い匂いが鼻をかすめた。


「はっ!あたしも時間やばい!!」


慌てて階段を駆けおりたけど、
お隣さんの姿はもう無かった。