十夜が、あたしに覆い被さってきた。

 顔の横であたしの両手を押さえる大きい手。

 ビックリしたけど、あたしは動じなかった。

 なんとなく、予想してたのかも…


 「なんもしないんじゃなかったの?」

 「ムリでした。」

 
 ちょっとおどけながら言う十夜がカワイイ。


 …なんて思ったケド、そんな呑気なこと考えていられる状況じゃない。


 「離して?」

 「ヤダ。」

 「離せよ。」

 「初めて?」

 「はぁ?」

 「初めてなの?」

 「…別に違うけど…」


 とバカ正直に答えてしまう。

 十夜が不敵といえるような笑顔を浮かべる。



 …なんかムカツクな、この笑顔。



 「じゃ、いいじゃん?」

 「ヤだし。」

 
 いくら初めてじゃないからって、ヤるのはヤダ。

 まだヤダ。


 「怖いの?」

 「ぜ、全然!!」

 

 …あ

 ここで怖いって言えば良かったのかも。


 
 「じゃあいいじゃん。」

 「ヤダよ。
 十夜はそれが目当てであたしにあんな話持ち出したの!?」
 
 「いや、そうじゃないけど。」

 「じゃ、しなくていいじゃん。」

 
 十夜は少し黙ると、再び口を開いた。


 「じゃ、しない。」

 
 と言いながら、十夜があたしに唇を重ねてきた。



 ちょっと!

 しないって言ったじゃん!!

 

 すると口の中に何かが侵入してきた。


 「…ム…ンフッ…フッ…」

 
 段々息苦しくなって手足をばたつかせる。


 
 苦しい苦しい!