行ける訳ないじゃない!



 喉まで出掛かった言葉を飲み込む。



 佳耶は何も知らないはずだ。
 
 だからこんな事言ったって困らせるだけ。

 
 
 あたしは何て言ったらいいのか分からず、下を向いた。

 
 「耶奈。」


 顔を上げると、微笑む佳耶がいた。


 「最後だよ。
 よろしくね。」


 そう言ってウインクをした。



 これが最後だよ。



 …これは、佳耶が与えてくれた最後のチャンスなんだ。

 

 あたしはそう理解すると、

 
 「行って来るね!」


 そう言って歩き出した。


 あたしは気付いてた。

 歩き出して、角を曲がってしばらくしても、ドアが閉まる音が聞こえなかった事に…

 角を曲がるまで、ずっと背中に佳耶の強い視線を感じてた。

 あたしは、緊張で足が震えるのを押さえながら十夜の部屋に向かった。

 

 さっきは佳耶の応援でほとんど勢いで来ちゃったけど、なんかすごく緊張してきた~!

 
 
 今すぐ自分の部屋に戻りたい衝動を押さえて、また角を曲がる。

 人の気配がして顔を上げると、壁にもたれる様に成高が立っていた。


 「おお、よう。」

 「う、うん。」

 「もう荷物まとめた?」

 「まあ…」

 「何だよ、元気ないじゃん。
 …なんかあった?」

 「えっ、と…ちょっとね。」

 
 自分でも分かる程の引きつった笑顔を浮かべる。