言葉を発する暇も与えず唇が塞がれる。

 あたしの手から携帯が落ち、カツーンッと高い音が廊下に響いた。

 
 「ン…まっ…人が来たら…」

 「こんな時間に誰も起きてねぇだろ。」

 
 そう言って再び顔を近づけてくる。


 「ン…フン…ム…」


 
 なんか…

 今日激しくない!?

 いつもより激しいって思うのはあたしだけですか!?



 苦しくなって霞の背中を叩くけど、無視。

 やっと離れたと思ったらまた重ねてくる。

 何回か重ねて離れたあたしと霞の唇は、多量な酸素を求めた。


 あたしは息苦しさに霞の腕の中でシャツの裾を握り締めたまま息をついていた。

 静かな廊下に2人の息が交差した。


 「…あ…もう行かねぇと…」


 霞がだるそうにあたしの肩に手を置き、引き離した。



 ちょっと…いや、すごく残念。

 

 残念だけど、もっと一緒に居て欲しいけど、行って欲しくないけど、鬱陶しく思われたくないから、素直に離れた。

 まだ少し息が切れてて苦しい。
 
 だけど、それを耐えてあたしは息と一緒に言葉を吐いた。


 「何しに行くの?」

 「……秘密。」



 おい。
 なんだ最初の間は?



 すっごく気になるけど、我慢して気のない素振りをして『ふ~ん。そっか。』と言った。

 素直に“気になる”なんて言えない、かわいくないあたし。

 
 「出来るだけ早く帰って来てやるから。」

 
 そう言ってあやす様に頭を撫でる霞。



 子どもじゃないんだから。



 そう思ったけど、居心地が良かったから、黙ったまま下を向いた。


 「じゃあ、もう行くな。」


 そう言ってあたしに背を向けた霞。

 もっと撫でで欲しくて霞の大きな手をじっと見たけど、伝わるはずもなくて、壁の向こうへ姿を消した。

 あたしはそれを見送ると、黙ったまま落ちた携帯を拾って、自分の部屋に引き返した。