「用事はあるけど、まだ行くのは早いんだ。」

 「え?」

 「ちょっと大きい街の方に行くんだけど、まだ行くのに早いからな。」

 「え?
 じゃあ今日は霞いないの!?」

 「午前だけな。
 午後はちゃんといるから。
 記録伸ばしとけよ。」

 「はーい…」
 
 「俺がいない間は神田先生にまかせるから。」

 「ゲッ!!」


 あたしはつい、嫌な声を出してしまった。



 だって、あの神田だよ!?

 あの神田が来るんだよ!?


 
 神田って言うのはうちの部の副顧問で、男が好きでひいきをしまくるというので有名な先生だ。

 実際、うちのクラスの英語を担当している神田…フルネーム神田畔奈は女子ばかりに注意して男子が暴れると、一緒になって笑う。

 あたしはそこまで嫌いじゃない…っていうか、興味がないだけなんだけど、佳耶が毛嫌いしている。

 だから英語の時間が終わるといつも不機嫌になって、部活も神田が来ると帰る時にやっと機嫌が良くなる感じだ。

 なんでも、佳耶の好きな大嵜先輩が神田と仲が良いらしい。


 「なんだ、耶奈も神田先生が嫌いか?」

 「…嫌いって訳じゃないんだけど、ものすごく嫌ってる子がいて…」

 「ああ、舞原な。」

 
 霞が苦笑いしながら言った。

 
 「舞原あらかさますぎるよな。
 確実に気付いてるのに気にもしない神田先生もなんだけど。」

 「神田先生が来るとすごく機嫌が悪くなるんだよね。」


 あたしも苦笑いしながら言った。


 「…でも、いい先生だよ。」


 急に、霞が真面目な顔をして言った。


 「多分、神田先生が一番生徒と仲良くしたいって思ってるよ。」

 「…そうなの?」

 「今度、話す時目と表情を見て話してみ。
 …っと、もう行く準備しないとな。」


 そう言って、霞があたしの腕を掴んで頭と一緒に引き寄せた。