やっと十夜の口が離れて、あたしは酸素を思いっきり吸った。


 「ハァ…ハァ…
 ちょ、十夜!!」


 と、怒鳴りつけようとすると、目の前にあるはずの十夜の顔があたしの顔の下にあった。

 胸元にチクッと軽い痛みを感じる。

 
 「ちょっ…とぉっ、や…」

 「何?」

 
 普通に顔を上げて返事をする十夜が憎らしい。


 「何?じゃなくて!!」

 「何だよ。」


 と言いながらまたあたしの胸元に顔をうめようとする。


 「ちょっと!
 しないんじゃなかったの!?」

 「言ったよ。
 だけど、何もしないとは言ってない。」


 そう言ってまたあたしの肌に吸いつく。


 「ちょっ…とぉ…」



 この屁理屈野郎!!





 「…ありえない。」



 ありえない
 ありえない!
 ありえない!!

 なんなのよ、これは!?



 あたしは呆然としながら、鏡に映った自分の胸元についた赤い痕を見ていた。