その日授業を受けていても何も頭に入ってこなかった。
お昼にお弁当を食べた事さえ覚えていない。帰って来てお弁当箱が空になっていたので食べたんだと分かったくらいだ。


「おい!稀美果!!」

「えっなに?なにか言った?」


ふたりでいつものように夕飯を食べていると直寿が色々と話をしていた様だが稀美果の耳には何も聞こえていなかったようだ。


「今日の肉じゃが美味しいって言ったんだよ!」

「あ、うん、ありがとう…」

「どうしたんだよ?さっきから俺が話してるのに上の空じゃないか?何かあったのか?」


直寿が稀美果の料理を褒めてくれて本当は嬉しいはずなんだが素直に喜べないで居た。


「ねぇ昨日遅かったのは知り合いの人と久しぶりに会って食事を食べに行ったからだよね?」

「ああ大学時代の友人と偶然会ってな!食事でもって話になって… 急に悪かったな1人で食事させて」

「…ううん…久しぶりに会ったんだもん食事ぐらいいいよ…」


食事ぐらい…… 本当に久しぶりに会った友人なら……
でも…直寿、嘘ついてるよね?……
校門前で偶然会ったりしないでしょ!?…… 偶然会った女友達と抱き合うなんてしないでしょ?…… ましてやキスなんてしないでしょ…… その女の人は誰なの?……
その人の車で何処へ行ったの?……
本当は何しに行ったの?……
私とはデートもしてくれないのに……
生徒やその保護者に見つかるとまずいからって一緒に買い物も行った事ないのに……
私以外の人となら生徒の前で抱き合ってもまずくないの?