上越の部屋にて

結局その後、白新と羽越が落ちて今回はお開きとなった。
信越はすっかり寝てしまっている三人にそっと毛布をかけると台所にいる上越に言った。
「もう、一年だよな。」
「北陸上官か?」
「そう。」
「早いよな、一年。」
上越はたくあんとお猪口を二つもってこちらにきた。
「あ、ありがと」
上越が渡してきた酒を一口のむ。
そうしたら、少し俯いた信越がぼそぼそ話し始めた。
「あのな、碓氷峠あるだろ?」
あそこを越えるのに、北陸上官は和美峠経由なんだよ。北陸上官も新幹線の中じゃ通常勾配の倍だけどさ、30‰って、それでも俺の二分の一だけど。それにあの区間は元は俺の複々線だろ。北陸上官でさえあそこは直接越えられなかったんだ。
「ああ。」
「上越、なんで廃止になったのかな。」
お前に比べて輸送力も低かった、あそこが明らかに邪魔になってた。あの時にパウナルの言うとおりに緩勾配の和美峠とか入山峠にしといたら俺はまだあそこを走ってたのかな。五百人の命を無駄にしたのかな、俺は。
珍しく弱音を吐く信越に上越は酒を煽ると優しく言った。
「大丈夫だ、信越、お前は立派にあそこを走ったんだ。」
五百人の命は無駄なんかじゃない。お前はあそこを走り抜いた、煙にも耐えて、周りからの偏見にも耐えた。お前は必要とされていただろ?
だから大丈夫だ、信越。

信越は顔を上げて残りの酒を一気に飲むと立ち上がった、それは何時もの信越の顔だった。
「ありがとな、上越」
というと、信越は部屋を出て行った。
「…ん?あ…、まて!こいつらどうすんだよ!」
「それにしてもなんで俺?ま、いっか。あんな信越も珍しいしな。」
上越はため息をつくと部屋の隅で固まって寝ている四人の同僚達に改めて布団を被せた。
「俺は明日非番だし、もう一杯いってから寝るか」
と言うと上越は台所に戻っていった。