「ゔ〜〜〜〜っ……」


こめかみを押さえ、犬のような唸り声を出しながら菅野が起きてきた。



「はよ」


腹立つけど、いちおー挨拶してやるか。



「……おはよう……羽田………」


くしゃくしゃと髪を搔き上げながら挨拶を返し、俺の側にやって来る。



「私……昨夜酔っ払って帰った?」

「おう。大した大虎ぶりだったぞ」


朝メシを作りながら大袈裟に言ってやる。
菅野はショボンと肩を落とし、コツン…と額を肩にぶつけた。



「ごめん……」


背中に胸の感触があたる。
それにドキリとしながら昨夜のことを思い出さないよう努めた。



「何が?」


よっ!…と、オムレツをひっくり返す。
平静を装いながら料理するのもラクじゃねーよ。



「昨夜、早く帰るつもりだったんだけど……」


急に決まった緊急会議に出席を余儀なくされた…と言い訳が始まる。
イタリア料理店で行われた会議が思いの外楽しくて、ざっくばらんな雰囲気だったから思わず飲み過ぎてしまった…と説明した。


「羽田も飲みだし、遅くなると言ってたからいいやと調子こいたのがいけなかったね……。ごめん、本当に……」


酒の残った頭で考えた反省を口にする。
本人はそれで謝ったつもりでも、俺の胸の内は晴れない。
キリキリと痛いものを感じながら「別にいいよ」と短く呟いた。


言い足らない菅野はまだ側を離れようとしない。
きちんと謝まろうにも、働かない思考回路が邪魔をしてうまく言葉が出てこないみたいだ。