「頭を上げて下さい。今やらなければならないのは謝罪することじゃない。売り場作りを変えて、少しでも損害額を減らす努力です。社員、パートも含めて全員で会議を開きましょう。今夜にでも直ぐに」


凛とした張りのある声は店内に響いた。

その声を聞きながら、妙に胸がきゅん…と鳴る。



自分の立場が分かったような気がした。
羽田にとって、私がしてやれることを幾らか気づけた気がする。


羽田にとって私の存在は大きいのか小さいのかも知らないけど、でも、一緒に住みたいと思ってくれるくらいの価値はあると思っていい。

それなら私もその思いに負けないくらい価値ある存在になれるよう努力しよう。

うじうじしてないでスッパリ聞こう。


「昨日会った女性は、元カノなんでしょ?」……と。




「ねぇねぇ、美結りん!副社長さんがこっち来るよ!」


キュッと服の袖を掴んで佐藤ちゃんが囁く。
にこやかな笑顔を浮かべた男性は私達の方へ来て、「初めまして」と声をかけた。



「お、お初にお目に掛かります!」


緊張した面持ちで佐藤ちゃんが挨拶をする。
その様子を斜め上から見つめ、チラッと相手の顔を見た。


「あれ?君は……」


スーツ姿の男性の視線がネームプレートに注がれる。
「やっぱり!」と納得するような声を上げ、「菅野さんっ!」と名指しされた。


「は、はいっ!」


背筋を伸ばして顔を見た。
優しい顔の裏は鬼だと言われてる人は、ニコッと爽やかな笑みを浮かべる。