「おやすみ。お風呂、明日の朝入るから……」


肩を落として菅野は寝室へ行った。
いつもに比べて無口なヤツに、違和感を覚えねぇワケじゃない。


でも、今は少しだけホッとしてる。
思わぬ再会を果たして、胸の中が騒ついてるせいだ。






「元気そうね」


声をかけてきたのは、元カノの多川 梨花(たがわ りか)だった。
今は結婚してるから多川って苗字じゃないはずだけど。



(ビビったぁ。まさかあんな場所で会うなんて……)


結婚して九州へ引っ越したって聞いてたのに、何であんなトコにいるんだよ。

ショッピングモールの近くにアイツの実家があって、確かに生活圏内ではあったけど……。



(マズったなぁ。まさか美結と一緒の時に会うなんて……)


菅野には、一応梨花のことは話してある。

派遣で働き始めた元カノは、俺よりもいい男を捕まえて結婚したんだ…と説明した。



(あの時はあいつ、『ふぅん。そうなの』って関心もない様子だったけど……)


「今日のはマズいよな……あれ絶対気にしてるみたいだったし……」


咄嗟に『昔の知り合い』なんて言い方をしてしまったけど、絶対にウソだとバレてる気がする。

もっと単純にさらっと、元カノだと教えれば良かったか。
それとも単なる友人とか。


(でもな……何言っても勘違いしそうだしな)


顔だけは特別にいい梨花は、「女優さんですか?」と周りに勘違いされることが多かった。