「お願い!勘弁して……!」


「ダメ!ほら口開けて!あーん!」


私は目の前にいる人の顔をマジマジと見ながら背中に冷や汗を感じていた。

今は夜の8時。
仕事から帰ってきた羽田に、困った要求をされてるところ。


「美結、口開けねーか!」


「だ、だから……ご飯くらいくらい自分で食べるからいい…って……」


スプーン貸して…と頼んでるのに、頑として譲らない。
こんなガンコな男だったのか…と、今更ながらに呆れてるとこだ。


「俺はお前のお母さんに頼まれたんだ。『美結の看病宜しく!』って。だからお前はそれに甘えればいいんだよ!」

だから、口開けろって言うの⁉︎
そんなの恥ずかしくてできるワケないじゃん!


「お母さんが何て言っても自分で食べれるからいいよ!スプーン貸して!…て言うか、そもそも食欲ないし……!」

「ほらぁ、そう言うだろうと思った。だから食わせようとしてるんだろ、俺が」


スプーンの先に乗ったトマトスープを見せられる。
仕事から帰ってきた羽田が、手際よく作り上げた代物だ。


「は…羽田だって熱ある時は食欲ないでしょ⁉︎ おんなじだって私も!」

「でも、俺はお前の作ったメシ食ったぞ!」


あんま味しなかったけどな…って、それ美味しくなかったって言いたいの⁉︎


「羽田は自分で食べたじゃん!だから私も……っ!」

「あーーうるさいっ!食えっ!ほらっ!」