くん……と鼻を擽るような香りがする。
何だが知らねーけどいい匂いだな…。


「くん…くん……」


匂いのする方に近づいてくと、「くすっ」と小さな笑い声が聞こえた。

ぎょっとして目を開くと、枕元に凭れるようにして眠ってる菅野の顔がすぐ横にあった。


「やだ、もう……ペソってば……そんなにニオイ嗅がないでよ………」


飼い犬を触るつもりだったのか、下ろしていた右腕を持ち上げる。
さわさわと髪を撫でた指先が、色っぽく首筋に沿って下りていく。

ドキン…と胸を打つその仕草は、トントン…と首筋を撫で始めた。

擽ったい様なゾクッとする様な感触を受け止めて、じぃ…と菅野の顔に見入る。
何をやってんだ…と呆れる俺の目の前で、無防備な寝顔をしていた女は目を開けた。



「よぉ…」


どう言っていいか分かんねーからそう呟いた。
一瞬怪訝そうに眉を潜めた菅野は、パチパチと瞬きを繰り返してから上体を仰け反らせた。


「な……なんでここにいるの……」


寝ぼけてんのか知らねーけど、何だよ。その間抜けな言葉は。


「お前、何言ってんの?ここ俺の部屋だけど?」


熱出してぶっ倒れたの忘れたのか?と尋ねると、周りをキョロキョロ見回してる。



「……そっか。そうだった……」


思い出したように納得してやがる。
緊張感があるんだか無いんだか、どっちなんだよ一体。


「…お前、寝るならこっち来いよ。風邪引くぞ」


熱出してぶっ倒れた俺が言うのも変な話だけどな。


「い、いいよ!床で寝るから!!」


「この上あったかいし〜」とカーペットを撫でさする。