(せめて、この香りに癒されるか……)


そう思ってカゴに入れて帰ると、羽田はテレビのお笑い番組を見ながら笑い転げてた。



「おかえり〜〜」


まるで日常のように迎えられた。
私がこの部屋へ来るのは今日が初めてで、それも朝かけた電話やメールに羽田が反応を示さなかったからだというのに。



「…ただいま……」


暗く挨拶を返してキッチンへ向かう。
シルバーの冷蔵庫のドアを開け、空っぽの庫内に朝食用の食材を並べる。


あれこれ買ってきても羽田が朝ご飯を作るようには思えない。
だから「明日の分だけ」を意識した。

パック豆腐と小袋に入った和食惣菜、チーズに漬け物、枝豆……お酒のツマミになりそうな物もチョイスしてる。



「……あれ?酒は?」


背後から聞こえた声にビクついた。
くるっと向きを返ると、紺色の部屋着を着た羽田が冷蔵庫のドアを押さえて立ってた。


「買ってこなかったよ。熱もまだあるし、今日は禁酒でしょ」


奥さんみたいなことを言ってしまった…と、口にしてから思った。
かぁっと熱くなる頬を隠すようにして慌てて背中を向ける。


「調子戻ったら食べれそうな物入れとくから食べて。賞味期限に気をつけてね」


またしても余計なことを口にする。
普段なら当たり前のことなのに、どうしてこんなに意識する必要があるだろう。


「悪いな。助かる」


お礼染みた一言にすらドキンとして胸が弾けそうになる。