「どう?美味しい?」


自分の皿を用意しながら聞かれた。


「うん……まあまあ。…どっちかつーと旨い、かな…」


実際は鼻が少しだけ詰まってるから味はハッキリしねーんだけど。


「なら良かった。しっかり食べてよく寝て。私これ食べたら帰るから」

「…えっ?」

「だって、もう8時過ぎてるし」


後ろの壁にある時計を指差された。どおりでさっき叫んでた訳か。


「熱なくても薬飲んでね。明日も仕事あるんでしょ?行ける?」


心配そうな顔してやがる。
間近でそんな顔されたらたまんねーよ。


「…大丈夫。今はまだ休めねーから…」


パクつきながら呟く。
スプーンを皿の中に差し込んだまま菅野が小さな声で囁いた。


「店長って大変なんだね…」


佐々木さんは飄々としてたのに…って、そんな風に見えてたのか。


「あの人もアレで結構神経使ってんだぞ。人件費やら光熱費やらを計算して利益出すの必死だったし…」


俺としてはクマさんの次みたいな感じで、経営にもあまり加わったことなかったけど、今になってみれば大変さが分かる。
あのボヨヨンとした人当たりのいい性格も、一種忘れたいことから逃げる為の手段だったんだ。