「菅野さん、あれ何とかならない?」


頭の薄い店長に指差される。
そう言われても困る。
実家は明日まで誰も居ない。
動物禁止の羽田の部屋にも置いておけない。



「すみません……もう少し静かにするよう言ってきます……」


朝からどうにもついてない。
別に今日に限ったワケじゃないけど……。



「ペソ~~もう少し静かにしてー」


お願いだから…と懇願。
私の顔を見た途端、キュンキュンと甘えた声で鳴きだす。
弱り果てながら撫でる頭の上から、聞き覚えのある声がした。




「やあ、どうしたの?」


ペソの側で膝を折る私と同じ体勢をとる人。
昨日の朝、偶然出会った人はニコニコしながらペソの頭を撫でた。


「今日は愛犬とご出勤?」

「は、早見さん…!あ…いえ、副社長…!」


「お、おはようございます……」と立ち上がって一礼。

早見さんは気さくな笑顔を浮かべ、「おはよう」と言い返してくれた。



「すみません……親戚でご不幸があって、実家にも彼の部屋にも置いておけなくて……」


連れてくるまではスゴく大人しくていい子だったのに、ここに繋いだらいきなり鳴き出して……と言い訳。

早見さんはそれを聞いて、「ふ~ん」と呟いた。
徐ろに立ち上がり、ペソの顔を覗き込む。


「この子、初対面の人にも慣れる?吠えたり噛んだりしない?」


「だ…大丈夫だと思いますけど……」


ペソは寂しがり屋だから1人にされると鳴いてしまう。だけど、側に誰かが居てくれたら安心するはず。