…さっきの甲斐甲斐しさを目の当たりにすると、意外に家庭的なのかもしれね。

そう言えば、編み物が得意な女だった。
やたら力強くて意地っ張りで、性格は男みたいなとこもあるけど。


(それでも大分緩和されたよな。最近は必死で外見女子に見せようとしてるし。そう考えると健気な奴だよ…)


読むとはなしに読み上げた本を床に落とした。

軽く疲れを感じて目を閉じると、旨そうな香りが鼻についてきた。



「お待たせ〜!リゾット作ってみたよ!」


味付きの粥だよな…と、余計な一言を言った。
菅野は怒りもせず、「まあそうだね」と肯定する。



「とにかく食べてみてよ。私も食べるから」


トレイの上に深皿を乗せ、その中に卵の混ざった粥状のものを入れてくれる。


「冷蔵庫の中、空に近いんだもん。本当はもっといろんなもの入れると美味しいのに、有るの言ったら卵と納豆だけだったから驚いた。野菜室には人参の干からびたのと玉ねぎくらいしか入ってないし……羽田の食生活ってどうなってんの?一人暮らしやめて実家に戻ったら?」


湯気の立つリゾットをスプーンでかき混ぜながら文句をたれる。
ブツブツ言う菅野からトレイを取り上げ、俺は意見を言い返した。


「実家から通うのは遠いんだよ。バイパス沿いだからクルマ通勤必須だし、ガソリン代だって馬鹿にならねーだろ」


ハフハフ…と息を吹きつけ、リゾットを口に放り込む。
干からびた人参と玉ねぎ、卵だけの入った物にしてはまあイケる味だ。