「おかえり。ねぇ、どうしてペソを抱えてんの?」


手元を離れ、私の足元に寄ってくるペソを見つめる。
手に持ってる菜箸を置き、ヒョイと抱き上げた。

クンクン…と甘える声を出し、鼻先を押し付けてくる。
舐めようと出てくる舌先を押さえつつ、羽田の方を振り向いた。


「ここって動物禁止でしょ?」


手にしたドッグフードの袋を足元に置き、羽田がネクタイを緩める。
店長になってからこっち、羽田の通勤スタイルはスーツと決まってる。


「店を出ようとしたら美結のお母さんから電話があって、親戚の人が急に亡くなって通夜と葬儀におばあちゃんを連れて行くからペソの面倒を見て欲しいと言われてさ。お前、今日はこっちに帰るって連絡してたんだろ。それで」


「ああ、なんだ。そう…」


必死で顔を舐めようとするペソを阻止しながら納得。
おばあちゃんの兄弟の誰かがこの最近入院して、容態が思わしくないとは聞いてたけど……。


「それより、お前…後ろから煙出てるぞ」

「えっ⁉︎ ウソ!ヤダぁ!!」


生姜焼きの火消し忘れた!


「ヤバい!焦げたかも!」


慌ててペソを下ろして火を止める。
フタを開けると煙は固まりになって沸き上り、フライパンの中身は見事に黒い。



「あ〜〜ん!大失敗!!」


またしてもやらかした。
ここんとこの私、本当についてない……。



「どれ…」


羽田が寄ってきて見る。
菜箸で裏返してみると、片面はほぼ炭に近い状態で……。