ねえ、朔。


朔には何も残していないんだ。

手紙はお父さんにだけ。


だってね、文字にして言葉にしたら、抑えきれなくなりそうだったの。


“好きです”と。

たったひとりの人を好きになって、幼稚でも、確かに愛せた事が、すごく嬉しいの。


「……― ―」


声にならない。朔に言えない想い。

後悔はしていないよ。けれど、少し寂しい。


今も、朔と出会えた事を悔やんではいません。

本当は、出会いなんてどうだっていい。


あなたと会える時間が、あなたと過ごす日々が、ただ楽しくて愛しかった。それだけで良かった。


「さく」


声が、驚くくらい鮮烈に響き渡った。


わたしが呼んだ、あなたの名前は、真っ直ぐに届いたんだと思う。


朔とお父さんの驚いた顔を見て、少しだけ笑ってしまう。


笑い声は出ていないし、頬に笑窪もないだろうけれど。