ふと、まだかろうじて動く視界をほんの少しだけ巡らせると、お医者さん達の後ろに、薄ぼんやりと人影が見えた。


その人影が、誰かなんて、すぐにわかる。

輪郭も体格もはっきりとはしないけれど、わかるよ。


「………さ……」


届かないだろう、この声は。


触れられないだろう、この手は、朔に。


それでも、余力なんて一欠片も残っていない体を無理やりに起き上がらせようとした。


「詞織、待て。朔くん、こっちにおいで」


やっぱりどこもかしこもロクに力が入らなくて、微動した事でお父さんが朔に気付いてくれた。


朔は立ち尽くして、動かない。

慌てて立ち上がろうとするお父さんの手をぎゅっと握る。

弱い力だ。この手をあと10センチ上げて、朔に振ってあげられたなら、いいのに。


「詞織、朔くんは、いいのか」


問いかけに、ひとつ瞬きをして答える。

怖かったけれど、もう一度開けた視界はさっきよりも鮮やかに見える。


来なくて、いいんだよ。

その時がきたら、来ないでって言ったのはわたしなんだから。


怖いよね、人が死ぬんだから。


そこにいてくれるだけで、あなたの姿が見えるだけで、いいの。

それに、時間も、きっともうない。