彼女との出会いは秋の雨の中だった。
「あの…これどうぞ」
天気予報なんてみているはずもない俺が、
生徒玄関で突然降り出した雨を恨めし気に見上げていれば
不意にかけられた透き通るような声。
「私、ふたつあるんで」
そう言って差し出してくれているのとは
反対の手に持っている傘を振り、ふたつあるとアピールする彼女。
しばらく止みそうにもないし、
結構強い雨の中帰るにも帰れずにいたので
正直なところものすごく助かる話だが
「いえ、大丈夫です」
見ず知らずの人の物を借りるわけにもいかず断れば、
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべてから
「でも、風邪ひいちゃうでしょ?」
そう言って俺の手に傘を押し付ければ
引き止める間もなくふわりと立ち去った。
残ったのは赤い折りたたみ傘と唖然としている俺だけ。
傘だけを置いていかれるなんて思ってもいなかった俺は
ふわりと雨の中を歩いて行った彼女を追いかけることもできず、
この傘を放置するわけにもいかず、ため息をついてから借りることを決めた。
「強引な人だったな」
なんて呟きは雨の音に掻き消された。
それから赤い傘を開けば雨の中足を踏み出して、家路へつく。
強引な人、なんて思っていても
生徒玄関で長い間雨を見上げているだけだったため、
助かったというのは言うまでもなかった。
それでも、強引な人だったと自分の中では位置付ける。
何故かはわからなかったが、優しい人ではなく強引な人。
それが俺の中での彼女の第一印象だった。