春の日差しの暖かい昼時、いつもならこの時間帯はお客さんで店が賑やかになる時間だ


しかし昨日奥さんから今日一日休みを頂いたので特にやることの無い私はふと、今が桜の季節だと思い出し、久しぶりに桜を見たいという衝動に駆られた。


(そういえば、ここ数年桜をあまり見ていなかったわね…。懐かしいなぁ、とと様とかか様と一緒に庭に咲いた桜の木の下でお花見をしたんだっけ…)

そんなことを考えているうちに、京の町で一番綺麗と言われている、丘の上の大きな一本の桜が見えてきた。



(ーーーーきれい…)




遠くから見た時は花の花弁一枚一枚を認識出来なかったが、木の根本まで行くとひらひら舞う桜の花びらがまるで意志を持ったかのように綺麗に地へと置かれる。


ここだけ、別世界のようだ


千代はふとそんな事を思った。



辺りは珍しく人一人いなく、自分だけが存在する世界のようにも思えた。


その時、さぁーと風が吹き、舞っていた花たちは私の視界を塞ぐように横切っていった。


「ーーーーーあれ?君…」



「!!?」


1人きりだと思われた空間に突如自分以外の声が聞こえた。

しかし、辺りを見回してもやはり自分しかいない。



もしかして、幽霊??!


サァーと自分の顔から血の気が失せていくのを自分でも感じ取れた。


「ちがうちがう!上だよー!う、え!」


そろーと、恐る恐る顔を上げるとそこにいたのはお店の常連客である沖田さんだった。

沖田は器用に少し高い所にある太い枝からストンッと地面に着地すると軽く伸びをしてからこちらを振り向いた。


「君、確か僕がよく行くすっっっごい美味しい甘味のある店で働いてる子だよね?昨日は大丈夫だった?」


「あ、えと…。はい。…?あの、もしかして昨日助けて下さったのって」


「あー、違うよ?君を助けたのは僕のとこの副長」


「副長?」


「そ、副長」


副長とは、一体…。どこかなにかの団体にでも所属しているのかな?


「あの、すいません。その副長さんに助けて下さりありがとうございました、と伝えてくださいませんか?」


「えー?んー。…。あ!そうだ!君が直接土方さんに会えって言えばいいんだよ」


そうと決まれば、と私の腕を掴むと前は急げとばかりにずんずん歩き出してしまった。

ど、どどど!どうしよう!菓子よりとか必要だよね!?土方さん?って人が私を助けてくれたらしいけど、怖い人だったらどうしよ…!

「あ、あの「あ、そうだ!土方さんはとっても怖い人だけど、女性には暴力とか振るわないと思うから(多分)安心してねー」え!?あ、はい」

あれ、気の所為かな?いまボソッと多分って、聞こえたような…?



あああ、それより菓子折りを…!