朝、重たいまぶたを持ち上げると既に時間は6時を回っていた。

こんなに迎えたくない朝は今までなかっただろうなと思いながら制服に袖を通す。

台所に置いてあったエレルギー補充食品を口に詰め、水で流しこんだ。


母さんは…まだ、自分の寝室にいるようだった。まぁ、仕方ないだろう。

玄関で靴紐を縛っていると、寝室からだろうか母さんの声が聞こえた。

「行くのかい…?」

その声は今まで何万と聞いた母さんの声とは思えないほど弱く震えていた。

「はい」

「ごめんね。本当ならお母さんが励まさなきゃいけないのに…でも、怖くて…今、亮の顔を見たらきっと泣いちゃうから。ごめんね。」

「…」

「お父さんがいてくれたら。きっと元気づけるようなこと言ってくれたのに…。弱いお母さんでごめんね。」

俺は母さんの声を背に聞きながら玄関のドアに手をかけた。

「行ってきます。必ず帰ってきます。」

閉めたドアの向こうから母さんの泣き声が聞こえた気がした。