昔はもっとおとなしい子だったのにな。
成長して自己主張が強くなった。
少し悲しいような、嬉しいような、仕方のないような。

再び鏡を見て、顔だけ洗って台所に向かった。
コーヒーを入れる。
インスタントだが、いい香りだ。

久雄は少し過去を思い出した。

茜音は小さい頃に2回家族を失っている。
1回目は3歳になりたての、母親と離婚した時だ。

茜音はまだ離婚を理解できる年では無かった。むしろ、理解出来なくていいとさえ思った。
離婚の原因、親権争いで親同士が裁判など、全部なかったことにできるかもしれないからだ。

問題は5歳の長男、響弥だ。

5歳といえば、細かい事は覚えていなくとも悲しい出来事、として記憶に残るだろう。トラウマになるかもしれない。

親権は経済的理由から父親が優勢だった事もあり、2人とも久雄に親権が渡った。

しかし茜音が、

「お母さん可愛そうだからこっちにいる」

と言い出した。
もしかすると、初めての意思表示かもしれなかった。
おそらく、またすぐ会えると思っていたのか笑っていた。

しかし、最後の別れ際になると笑顔が消えていた。

母親と父親の精神的な距離に気付いたのか、父親と母親の間を取り持つように両手を離さなかった。
そして、嫌だ嫌だと泣きながら訴えるだけだった。

響弥はもうどうにもならないことを理解してたのかただただ3人を見ているだけだった。

結局茜音は母親のところへ、響弥は父親のところへ来たのだった。

別れてからは元気のない生活が続いた。