「梨乃さま、赤髪の男と会ったんですよね?」
クロウが部屋を出て行き、メイドの二人と梨乃だけになった時ミオがおずおずと切り出した。
その顔は不安に曇っている。
「ええ・・・。そういえばミオたちも知っているのよね」
「はい・・・。でも、私たちも実際見たことはないんです。噂程度にしか・・・」
「噂・・・」
「噂が出始めたのは1年ほど前からだと記憶しています」
ミオの話に続けるようにセレナがそう言った。
「素性が知れない謎の男として出て来たのですが、始まりは城下のバーでの騒動に巻き込まれたことからと聞いています」
「騒動・・・?」
「酔っ払い同士のいざこざです。そこで巻き込まれた赤髪の男はそこにいた酔っ払いたちを簡単に伸してしまったと言います」
あの男ならきっと簡単にできるだろうと梨乃は思った。
あの軽やかな身のこなし。
無駄のない動きに、戦うことに容赦のない様子。
その立ち姿すら、恐怖を覚えた。
「その男の噂は瞬く間に広がりました。面白がって懸賞をかけた者がいました。そのためその男をたくさんの男たちが挑んでいったそうです」