「何かご用です?すみません、買い物に行っていたもので」



にこやかに穏やかな声が聞こえる。
振り向いた先にいたのは、間違いなく思い描いた人だった。



「おかあさ・・・」

「まぁ、泣いているの?どうしたの?何か悲しいことが・・・?」




本当に、忘れてしまっているのだと、母親の反応で確信した。
あの時は、母親の反応は知ることなくあの世界に行ってしまったから。


やっぱり、母親も自分の事を忘れていたのだと・・・。
少しだけ抱いていた期待は、儚く散った。




「ごめんなさい、大丈夫です・・・」

「そう?よかったら、あがっていってちょうだい」




母親はそう言うと梨乃を家へと招き入れた。