「戻りたいと、思うか?」
「・・・ううん」
シドの問いに、梨乃ははっきりと答えた。
「思い出は、ちゃんと私の中に残ってるから」
「そうか」
戻れたとして。
また、会う事が出来たとして。
その人たちにとっては、初対面で。
全てを、忘れられていることを直面するのはもう怖かった。
あの時に感じた絶望を、もう感じたくはなかった。
「でも、育ててくれてありがとうって言いたかったな」
例え忘れてしまったとしても。
それでも、ここまで生きてこられたのは、確実にあの世界にいた家族のおかげ。
そのお礼だけは、言っておきたかった。
「・・・俺も。お前を育ててくれてありがとうと、言いたかった」
「シド・・・」