「あの、あなた・・・名前は?私は、樋宮梨乃」
「・・・お前に名乗る名はない」
「え・・・」
男は地面に落ちていた男のものであろうカバンを拾い土ぼこりを払う。
「いつまでそんなところにいるつもりだ。また襲われたいのか」
「え・・・あ、でも・・・」
「・・・?」
「こ、腰が抜けて・・・」
あはは、と空笑いを浮かべる梨乃をうんざりした瞳が指す。
あからさまなめんどくさそうな視線に、梨乃は笑うしかなかった。
「ちっ・・・。ほら、起きろ」
「わっ、あっ、・・・」
男は無理やりに梨乃の腕を掴むと引っ張り起こした。
思わずよろけた梨乃が男の胸板に手をつく。
その瞬間、男の顔がゆがんだことに梨乃は気づく。
「あなた・・・、ケガをしてるんでしょう?」
真剣な梨乃の瞳に、男は眉を寄せ顔を反らした。