「王族の婚姻式はそうだな。庶民の婚姻式は時計を送り合うらしいけど」
「そうなんだ」
「ここではって、他は違うのか?」
「あ、うん。私がいた異世界ではね、指輪を贈り合うの。結婚指輪って言って。ほら、ここ。左手の薬指につけるんだ」
左手を掲げ、薬指を右手で指す。
懐かしそうに目を細めた。
「へぇ。なんで左手の薬指なんだ?」
「なんか、大昔の外国では、心臓は人間の感情を司る場所だって言われてきたんだって」
「人間の感情。心臓で、物事を感じ考えるってことか」
「うん。それで、左手の薬指には心臓につながる大きな血管があるって信じられてたんだって。
だから、その心臓につながる左手に指輪をはめることで相手の心を掴み、結婚の誓いをより強いものにするという意味があるって、本で読んだことがある」
梨乃はそっと置いてある指輪を手に取り薬指にすっと通していく。
ぴったりとはまったその指輪を掲げにっこりと微笑んだ。