「あ・・・、あれ・・・?」



座り込んだ梨乃は、ふぬけた声を上げる。
男がナイフを振り上げて、自分は殺されるのだと思った。

赤髪の男はきっと自分を助けてくれはしないのだろうと。
自分の死は、この男にとって何の価値もないのだと。



だって、本人がそう言っていたのだから。




だから、ここで死んでしまうのだと。
それでも、どうせ生きていても大切な場所には戻れないのだからと。

勝手に心の中で見切りをつけようとしたのに。



倒れていたのは自分ではなく自分を拘束していた男で。
白目をむいて気絶している男から慌てたように遠ざかった。





「あ、あの、・・・助けてくれてありがとう・・・」



梨乃が怯えながらも赤髪の男にそう告げる。
興味なさそうに梨乃に視線を向けた男。



「別に、お前を助けたわけではない」



素っ気なくそう言った。
それは本心なのだろう。