「なんのこと」

「もう、気づいてるくせにっ。淳の気持ち」




そう言われ、梨乃は淳が歩いて行った廊下を見る。
淳の気持ち・・・。

気づいていないわけではなかった。
時折見せる照れくさそうな表情。
自分に見せる特別な優しさ。


でも梨乃はそれに気づかないふりをしていた。




「・・・聞いたわけじゃないのに、決めつけたらだめだよ」

「決めつけとかじゃないって!あれは絶対梨乃のこと!」

「声、大きいよ。ほら、HR始まるから行こう」




話を切り上げるように梨乃がそう言うと歩みを進めた。
ゆりねは立ち止まりそんな梨乃を見つめながらボソッと呟いた。




「ずるいよ、梨乃」




その呟きは、誰にも聞かれることなく消えていった。