「心がそこにない―――か」



中庭から移動しながら、ロイが呟いた。



「確かに、そうだな」




シドがいなくなったあの日から。
目まぐるしく周りが変わっていき、梨乃自身も決断を迫られるようになった。


あの日から。



確かに梨乃は変った。





「心、とは、なんだ。どこかに、落とすようなものなのか」




カノンの言い回しに、ロイは首をかしげる。
その繊細な思考は、自分にはないものだと感心すらする。




「ならば心とは、どうすれば取り戻せる?」




ああ、わからない。
自分に、わかるわけがないと。