「婚約披露パーティ?」
「はい。まだ正式な婚約はまだですが、国民の安心を得るためにも、シルスタ国との友好を証明する意を込めて、一足先にお披露目のパーティを開催する運びになりました」
梨乃の部屋を訪れたクロウにそう説明された梨乃は、思った以上にトントン拍子に進んでいく話に、少し戸惑いを見せた。
覚悟を決めたはず。
それでも、微かな迷いはそこにあった。
「お披露目といいましても、かっこ仮のようなものです。そう畏まらなくても大丈夫ですよ」
「かっこ仮といっても、もう決まったようなものだし。お披露目すれば、取り消すことはもう難しいでしょう」
「難しい、というだけの話です。婚姻を結んでしまえば、そう簡単には行きませんがね」
ニコリとほほ笑みながらクロウが答えた。
梨乃を安心させるための事だったが、話したことは本心だった。
クロウ自身も、梨乃がプリンセスとしてと思い詰めていることはわかっていた。
しかし、今の現状こうすることが最善であることは確かだった。
だが、それでも、まだ引き返せることは逃げ道はあるということは知らせたかった。
「ううん。大丈夫。国民の期待を裏切りたくないから」
クロウの想いも虚しく、梨乃はそう言い切ったのだ。