闇雲に走りながらもやってきたのは中庭。
この場所は落ち着く。

綺麗な花に心が安らいでいく。



「あれ、梨乃さま?」




花壇の手入れをしていたカノンが立ち上がり不思議そうに首をかしげた。
この場所に来るときはいつもカノンを見つけると嬉しそうに笑ってくれた梨乃が、今日は笑わず立ちすくむ。

首をかしげながら梨乃のもとに寄る。



「どうかしたんですか?梨乃さま?」

「・・・ない・・・」

「え?」

「命なんて、かけてほしくない・・・」




ぽろっと零れた涙にカノンが目を見開く。
梨乃は俯き、涙をポタポタと落としていく。




「誰にも、死んでほしくなんてないの・・・」




言えなかった。
真っ直ぐ、告げられた思いに。

命なんてかけないでほしい、なんて。



「私のせいで、誰かが傷つくなら・・・。プリンセスなんて、やめたい」



吐き出した言葉は切なく、苦しい。
カノンはためらいがちに伸ばした手で梨乃に触れる。