「プリンセスは、我が国の魔術師の手により、その異世界の住民として16年生きてきました。プリンセス自身、その異世界の人間だとずっと思って生きてきたんです」
「な・・・」
「それが、魔術が消えその世界の人間の記憶からプリンセスの存在が消えたため、この世界に呼び戻したのです」
クロウの話は、いささか信じがたいことだった。
異世界については、国の上層部しか知らないことで、梨乃が異世界に行っていたことはごく一部の人間しか知らなかった。
「異世界のプリンセスがいた日本という場所は、物騒な事件はあるようですが、戦などのない平和な世のようなので・・・。こういった状況は初めて目にしたでしょうね」
クロウはそう言うと目を伏せた。
できるだけ、恐怖を味あわせることがないようにしたかった。
梨乃を、護りたかった。
知っていたのに。
どんな世界で生きてきたかを。
「んだよそれ!あいつの気持ちはどうなんだよ!」
「シド」
声を荒げたシドをロイが見た。
シドは怒りを露わにして拳を固く握っている。
プリンセスだとは知らずに生きていたとは聞いていた。
それがまさか異世界だったなんてーーーー。