「まま!ありんこ!」


アリの行列を得意げに見せてくる冬馬の頭をさらっとなでると、


「すごいねー!アリさんのご飯を運んでるんだよ」


と微笑みかけた。

その時だった。
二度と聞かないと思っていた。
聞きたくないと思っていた。
聞き覚えのある声が聞こえた。


「咲愛…ちゃん?」

「え?」


勢いよくバッと振り向くと、そこには…

彼方くんがいた。


「かな、たくん…」


呆然と立ち尽くす私に、彼方くんは微笑みかけた。


「久しぶりだね…」

「あ、うん。久しぶり」


やっと口から出た声は素っ気なくて、頼りなくて、切なげだった。

微笑み返そうとしても、表情筋が固まってしまって動けない。


「話せるかな…?」


少し戸惑い気味に聞く彼方くんにゆっくりと頷いた。