スマホをバッグに直して、公園を出た。

自分のアパートの階段を上っていく。

カギを開ける。

扉が閉まった。

大事な人。

大事な人。

大事な人?

カイトが、私にとって大事な人?

あんな女好きで、ちゃらくて、馬鹿ばっかり言って、人の家厚かましく上がり込んで。

でも、いつも律儀にコーヒー茶碗を流しに置いて、朝食代200円払って、私のこといつも心配して、ぎゅっと抱きしめて、10年前から思ってたって・・・。

カイトは自分の夢を叶えるために海外に向かう。

その夢の中に私はいるの?

そんな恥ずかしいこと、カイトになんか聞けない。

ナオトとカイトが勝手に交わした約束。

10年後、もし私がまだ独り身だったら、私をお嫁さんにもらうって?

何ふざけたこと言ってんの。

ほんとふざけてる。

海外に行っちまえ!

夢叶えるまで帰ってくるな!

気づいたら泣いていた。

どうして最近こんなに涙が出るんだろう。

年取って涙腺弱くなってるだけ。

でも、でもね。

カイトが本当に行っちゃったら、どうする?

ナオトを忘れてしまうことと同じくらい恐かった。

正直言うと、ナオトを忘れてしまうことよりも少しだけ恐かった。