『ミナミさんが一歩踏み出せないのは、やっぱり過去の彼のことがあるから?』

シュンキは静かに聞いた。

ナオトのこと。

いつも忘れたことはなかった。

目には見えないけど、いつもそばにいるような気がしていた。

「そうだね。そうかもしれない。」

シュンキは電話の向こうでそっとため息をついた。

『僕が言うのも何だけど。きっとその彼も君の幸せを願ってると思う。僕と同じようにね。』

ナオト、もう大丈夫?

本当に私は幸せになってもいいの?

幸せになったら、ナオトを少しずつ忘れていってしまうかもしれない。

それが恐かった。

「幸せ幸せって、何が一体幸せなのかよくわからなくなってきてるの。シュンキさんにとって幸せって何?」

シュンキはしばらく黙っていた。

『大事な人が幸せな顔をしているのをそばで見ていることかな。』

大事な人が幸せな顔をしている・・・。

大事な人。

私は誰の幸せな顔を見ていたい?

『大事な人は、いなくなってからじゃ手遅れなんだ。』

そう。ナオトみたいに。

「わかった。考えてみる。」

『別に強要してるわけじゃないから。』

「そういう言い方ってずるいよね。」

『そう、僕って結構ずるい性格なんだ。』

「それもまた意外だったわ。」

私たちは電話越しに笑った。

『またいつか、ミナミさんの幸せな笑顔見せて下さい。』

泣かせること言うねぇ。

「シュンキさんも幸せになってね。ありがとう。元気で。」

『ミナミさんも元気で。』

そして電話は切れた。