少しずつカイトのまとっていた空気が消えていく。

すっかりその存在が消えた時、シュンキが口を開いた。

「こんな夜更けにごめん。何度電話してもつながらなくて心配だったんだ。」

私は首を横に振った。

「入る?」

本当は中に入ってほしくなかった。

さっきまでカイトと語り合った、不思議で切ない空間をそのまま残しておきたい気持ちだったから。

「いや、いいよ。ここでいい。」

シュンキはそんな私の気持ちを察してか、玄関先から中に入ろうとはしなかった。

「ミナミさんも今日は疲れてるだろうから、すぐに帰るよ。ただ、昨晩のことだけはきちっと話しておきたかったんだ。」

「あのカフェのことね。」

「うん。」

「元カノに対しての僕の気持ちは完全に切れてる。これは本当なんだ。信じてくれる?」

腕を組んでうつむいて聞いていた私は、シュンキの顔を見上げた。

シュンキの目には偽りが感じられない。

私は無言でうなずいた。

「ただ、彼女は僕をことある事に呼び出してくるんだ。仕事にかこつけて。でも仕事は仕事だから、僕もしょうがなしに出向いてた。二人で研究室にこもることはあったけど、別れてからはそれ以上の関係は持ってない。昨日は、たまたま仕事が遅くなって、彼女のご主人が車で迎えにくるまでの間、カフェで時間つぶすのに付き合ってただけなんだ。」

「そうだったんだ。」

そう言いながら、シュンキへの疑いは晴れていったけど、晴れていった先に今の私には何もなかった。

晴れたところで、そんなことはもうどうでもよくなっていた。