「言った方がいいのかな。」

カナトはキーボードを打つ手を止めて小さな声で言った。

「知ってるの？」

思わず、カナトの腕を掴んだ。

「いや、付き合ってるっていう噂は誰が流したのか知らないけど、結婚するっていうのは俺の同期が言うには･･･。」

「誰？」

「やっぱ聞かない方がいいかも。」

「なによそれ。」

胸がドキドキしていた。

ひょっとして、ひょっとするの？

そんなこと絶対ないよね？

絶対ないと心の中で叫びながら、カナトの次の言葉を待っていた。

「･･･ハ、ハルカ先輩、って聞きました。」

脳天から足下まで雷で打たれたような衝撃が走る。

思わず目の前がくらくらとした。

嘘。

そんなこと絶対ないって思ってたのに。

さっきコーヒーで潤したはずの口の中がからっからに渇いていく。

「大丈夫ですか？やっぱり言わなきゃよかったかな、俺。」

カナトが私の顔をのぞき込んだ。

「んなことないよ。んなことない、大丈夫だから。」

足も手もなぜだか震えていた。

あまりにも聞きたくなかった衝撃的な名前が耳に飛び込んできたから。

ハルカ？あなたなの？どうして？

ああみえて、ハルカは脳天気なところもあるから、私とシュンキがうまく行ってると思って、ぽろっと出た話に違いないわ。

それをたまたま聞いていた誰かが、その言葉を拾い集めて根も葉もない噂にして流したんだ。

きっとそうだ。

ハルカに悪意があるとは思えない。私の噂を流すなんて。

もしかしてシュンキとうまくいかなかったら、私がすごく傷つくだなんて思ってないんだわ。きっと。

はは、そこまで私は強くないのよ。

ハルカ、あなたは何もわかっちゃいないわ。

人の噂ほど恐ろしいものがないってこと。

人を傷つけるってこと。

軽はずみにもほどがある。

でも、でも。信じられない。

カイトは、ハルカからそんな噂話が出てるって言ってたもの。

ハルカ自身が流した噂だったら、そんな風に言うはずがない。