「結婚しないんだ。」

「そうよ、しないわ。」

「じゃ、どうしてそんな話が出たんだろ。」

しらばっくれるカナトに最高潮にムカムカする。

「カナトがまいた噂じゃないの？」

私は前を向いたまま言った。

「え？」

「私と彼が一緒にいるとこ見て噂にしたのもあなただし、勝手に結婚するなんてくだらない噂を流したのもあなたじゃないの？」

「ひどいな。」

カナトは私に体を向けた。

ちらっとカナトを見ると、いつになく怒った顔で私を見ていた。

「俺、そこまで落ちてませんって。」

「カナトじゃないの？」

「違いますよ。確かにミナミ先輩と彼氏らしき人が一緒にいるところはたまたま見かけたけど、ミナミ先輩その話ししたら迷惑そうな顔してたし、ひょっとしたらまだ付き合ってるとかそんなんじゃないかなって、誰にも言ってませんし。それに結婚話だって、こないだ漏れ聞こえてきただけで、俺じゃないです。絶対に。」

あまりに真剣な顔をして言うカナトに、嘘じゃないことがわかった。

カナトが私が思っていたような口の軽い人物じゃなかったことに素直に反省する。

「ごめん。疑ったりして。」

「いいですよ。わかってもらえたなら。」

カナトは照れくさいのか目を逸らした。

「結婚っていうのも噂だったんですね。なんだかホッとしました。」

「なんでカナトがホッとするのよ。」

「いや、っていうか、まだまだびしばし指導してもらいたい先輩だから。」

カナトは頭をかきかき前を向いた。

そんなカナトを初めてかわいいと思った。

「んじゃ、遠慮なくびしびし言わせてもらうわ。」

私は笑いながら、カナトの腕を軽く叩いた。

そして、自分が勝手にカナトの事を誤解していたことに情けない気持ちになる。

「でも、一体誰がそんな噂流したんだろね。」

ぽつりとカナトのパソコンの画面を見ながらつぶやいた。