席に戻ると三輪カナトが珍しくパソコンに集中して向かっている。

画面をちらっと覗くと、私が朝頼んでおいた資料を作っているようだった。

カナトの後姿を眺めながら、さっきのカイトの話を思い出す。

私が結婚するなんてデマ、誰が流したんだろう。

もともとシュンキと一緒にいるのをばらしたのがカナトだとしたら、こいつが一番怪しい。

寝も葉もない噂を流して一体何が楽しいんだか。

しかも、私はカナトよりもずっと先輩なわけで、馬鹿にするにもほどがある。

これでシュンキとうまくいかなかったとしたら、私は本当に目も当てられない状況になるってのに。

私の視線に気づいたのか、カナトがゆっくりと振り返った。

「うわ、びっくりした。ミナミ先輩いつの間に俺の背後に立ってったんっすか。」

「さっきからよ。」

思わず口調がきつくなる。

「今、頼まれた資料作ってるんです。もう少し待って下さいね。」

「見ればわかるわ。」

私はカナトを見ずに座った。

カナトはじっと私の方を見ているのがわかった。

カナトに顔を向ける。

「何かついてる？」

「いや、ミナミ先輩、怒ってる？」

「別に。いつもこんな感じじゃない？」

「いつもよりも俺に対して当たりがキツイ気がするんですけど。」

私は軽くため息をついた。

「カナト、ひょっとして私の変な噂知ってる？」

「え。」

カナトが目を逸らした。

ほらほら、わかりやすいって。

「何か知ってるなら教えて。」

カナトはしばらく考えていたが、私の目を見て言った。

「・・・ミナミ先輩に最近イケメン彼氏ができたって。」

「ふうん。」

敢えて冷静な顔をして、頷く。

「あと、結婚するんっすか？その彼氏と。」

「まさか。んなことないし。」

よくもまぁ、自分が流した噂を誰かから聞いたような口ぶりで言うもんだわ。