シュンキはゆっくりと私の方に視線を向けた。

何も言わず一度頷くと、目を伏せた。

ひょっとして・・・ひょっとする?

以前付き合ってたって言ってた既婚の女性。

どうして、そんな寂しそうな顔をするの?

まだ、気持ちが残ってるから?

「出る?」

私は小さな声で聞いた。

「うん。出ようか。」

シュンキは、立ち上がってオレンジの女性に一礼するとそのままレジへ向かった。

私も慌ててシュンキの後に続いた。

しばらく二人とも何もしゃべらず歩いていた。

シュンキはまっすぐ前を向いて、何かを考えている表情をしていた。

その女性のこと、聞きたかったけど聞くのが恐い。

目に見えて実在する物の方が恐いと思ったのは初めてだった。

それにしても、どうしてあの場所に来ていたのかしら。偶然?

シュンキがふいに口を開いた。

「気づいてると思うけど、僕が以前話した忘れられない恋人って言ってた女性だよ。」

「気づいてた。」

「もう完全に終わってるから。」

それに対しては何も答えられなかった。

終わってたらそんな表情にはならないんじゃない?

喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。

シュンキは私の手を握ってきた。

少し慣れてきたシュンキの冷たい手。

「嘘でしょ。終わってるって。」

言ってみた。

「終わったよ。本当に終わったんだ。ミナミさんとキスした時に完全に終わった。」

急にキスしてきたシュンキを思い出して顔が熱くなる。

気を取り直して更に聞いた。

「関係は終わっていても、まだ忘れられないんでしょ?シュンキさんの心の中にいるような顔をしてるわ。」

「いないよ。今はミナミさんだけだよ。」

シュンキが私の方に視線を向けた。

とても柔らかで優しい目で。

「だけど、シュンキさんが彼女を見る目はとても寂しそうだった。」

自分でもしつこいなと思いながら続けた。このままうやむやにしたら、ずっとこの話ができないような気がした。

シュンキは軽く息を吐いた。

「信じられない?僕のこと。」

そう言うシュンキの目はさっきの女性と会った時よりも深く沈んでいた。