カズエの一件以来、疑心暗鬼になりやすい。

シュンキの不思議な言動も、なんだか全て悪いように見えてしまうんだよね。

一旦そう思い出したら深みにはまっていくというか。

今日は久しぶりのデート。楽しまなくっちゃ。

自分に必死に言い聞かせた。

「ルノワールは好きなの?」

シュンキが聞いてきた。

「うん。光の魔術師って言われるあのまぶしい色彩が大好き。ルノワールの絵は全てがスポットライト浴びてるみたいに見えるの。こっちまでその光が反射してくるみたいだわ。」

シュンキは穏やかな笑みを浮かべて私をじっと見ていた。

「ミナミさんて、かなりロマンチストだね。」

「見かけによらず?」

「それはどうだろ。」

シュンキは笑ってごまかした。

その笑顔に私もつられて笑った。

よかった。そうよ。これこれ。

こういうのができる相手がいいんだって。

「シュンキさんは絵画鑑賞なんかするの?今日は付き合わせちゃってるから、今更なんだけど。」

「そうだなー。あんまり絵画鑑賞はしないかな。」

「じゃ、今日は本当に付き合わせちゃってるんだね。ごめんね。」

「いいよ。嫌いじゃないし。絵画はあまり見に行ったことはないけど、博物館とか展示物観るのはすごく好きなんだ。その世界に引き込まれてわくわくする。絵画もきっと同じような感じなんだろうね。」

「そうね。絵画の世界もとても魅力的だわ。現実ではないけれど、きっとその作者の中では現実で、しかも写真と違って作者の思いが詰め込まれていて。その深い感じを探るのが面白いと思う。」

「ふぅん。今日はルノアールに自分を投影してその魅力を探ってみるよ。」

シュンキはとても頭がいい人だと思う。

どんな会話もそつなく受けて返してくれる。