「湿布は効いてる?」

「うん、少し楽になったような気はするけど、まだ動けないわ。」

「そりゃそうだろ。ぎっくり腰ほやほやなんだし。今晩はちょっと辛いけどこのままの方がいいかもな。」

「うん。」

しばらくの沈黙。

言い出そうか言い出すまいか、ものすごく悩んでいた。

でも、今ここでカイトを部屋に帰しちゃったら今度こそやばい。

ハルカがいつ復活するかわからない状況だ。

「おい、お前顔色悪くない?」

そう振ってきたのはカイトだった。

えい、もう言っちゃえ!

「あのさ、言いにくいんだけどさ。」

「トイレか?」

私が言う前にカイトが言った。

恥ずかしいけど、そのままこくんと頷く。

「実はさ、俺もさっきトイレに行って、ふとお前も行きたくなってんじゃねぇかって気になったんだ。」

「本当に?今日はカイト、冴えてるわ。」

心から安堵する。

「部屋のトイレあるよな。そこまで連れていけば後はなんとかなる?」

「とりあえずなんとかしないことにはどうにもならないでしょ。」

「必要なら最後まで介助してやろっか?」

カイトがニヤッと笑った。

「ばっかじゃない。あんたに頼むなら死ぬ気で一人でやるから。」

ほんと、この期に及んで。

シュンキに頼む方がよかったけれど、肝心のシュンキもどこかに行っちゃてるし。

ここは、腹をくくってカイトに頼むことにした。

「お前、立つことはできる?」

そう言いながらカイトが私の片腕を自分の首にかけて腰を支えた。

カイトに必死にしがみつく。

だけど、足が踏ん張れなかった。

「無理だな。んじゃしょうがない。」

とその時、ふわっと体が宙を浮いた。

かすかな腰の痛みはあったけれど、なにこれ?

いわゆる、お姫様抱っこですか??!

私は軽々とカイトの腕にお姫様抱っこされていた。

「うわ。」

思わず声が出る。

「お姫様抱っこなんて、お前の人生で初めてだろ。」

カイトは笑って言った。

なんていうか、こんな居心地のいいものだったんだ。お姫様抱っこって。

力が入らない私は完全にカイトに全身を預けていた。

「重たくない?」

「そりゃ重たいさ。」

そう言いながらもカイトは平然とトイレの前まで歩いて行った。