男は顔に影を作りながら私に語りかけた。目の前に瞳を潤ませたかよわい少女が居たとしてもその場から退く事は無い。

 ならば、と私は最後の手段に出た。

 男であるのなら急所はみな同じ___。

「死ねぇっ」

 馬乗りになった事で解放された足を蹴り上げ男の局部にぶつけた。

 いやあああと響く男の悲鳴。思った以上に甲高い声に多少の戸惑いを覚えた。

 しかしもたもたしてはいられない。男が痛みに暮れている間に立ち上がり逃げようとする。ふらつきながらもドアノブに手を掛け扉を開く。真っ黒な空が広がっていた。ふと足元を覗くと散乱した白い粉の様なものと掌もない大きさの皿が転がっていた。玄関先にあったことから盛り塩だと分かった。
 私は裸足で駆け出して叫んだ。

「呪われちまえー!」

 精一杯の嫌味のつもりだった。