せっかくのチャンスだからと話を切り出すが、彼にあっさりと一蹴された。

 樹は中学の時、陸上部に入っていた。大会でもいいところに行っていたため、それを知るクラスメイトから樹を部活に誘ってくれと頼まれていたのだ。

一週間ほど前に拒まれたことは伝えたが、わたしも惜しいという気持ちがあったため、思わず樹に聞いてしまっていた。

「部活に入らないし、姉さんが卒業するまで一緒に登下校する気から、安心していいよ」

 彼はこともあろうにわたしの頭を撫でだした。

 わたしが彼の腕を持ち上げようとしても、大きくついてしまった力の差はなかなか弾き返せない。

 彼はわたしの頭をわしづかみする。

 わたしは観念して、樹から手を離した。

「もっと高校生活を楽しもうとは思わないの? 仲良い友達を作ったり、彼女を」

 と言いかけて言葉を噤む。

 今はわたしにべったりな彼も、いつか女の子を好きになり、その子と一緒にいたいと思うようになるのだろうか。

 それが当たり前だと分かっているのに、体の内部にさっき発そうとした言葉が絡みつく。