彼をちら見している人はいるが積極的に話しかけようとしている人はいなかった。

 わたしはそんな視線を無視して、樹のところまで近寄る。棘のある視線が体中に突き刺さる。

「お弁当を返して」

 わたしは彼の前に手を出す。

「どうせここで食べるんだからいいんじゃない?」

「どこの世界に姉とごはんを食べる弟がいるのよ」

「俺は姉さんと食べたいと思っているよ」

 彼はそういうと微笑んだ。

 学校では姉さんと呼ぶのに、家に帰ると千波だのお前だの態度がらっと変わる。

 わたしはその彼の二面性にため息を吐き、彼の隣に座る。

「そうね。あんたは普通じゃないよね。わざわざ登下校も一緒にしたがるくらいだもん」

「褒めてくれて嬉しいよ」

 彼は意味不明な言葉を綴ると、爽やかに笑う。

「褒めてません」

 一応否定をしておくが、彼は聴く耳を持たない。

 樹と日和は同じ学年だが、中学時代は一緒に行くこともあればそうでもなかった。

わたしが中三のときはなんだかんだで二人と一緒に行く機会は多かった気がする。

そんな彼が登下校を一緒にしたがるとは思わなかった。