だが、頭の中では何度も繰り返すのに、わたしの言葉は喉を通った途端、無に帰す。

 人の告白を盗み聞きして妨害するのをよしとしなかったのか、否定することで樹への気持ちを伝えるのを恐れていたのか。

それとも朝のことがわたしの口をふさいでしまっていたのか。わたしによい感情を持っていない恵美の前だからこそ、言えなかったのか。

 可能性のあることは思いつくが、なぜかははっきりと分からない。

 ただ、わたしは金縛りにあったかのようにその場に突っ立っていた。

「ね、藤宮先輩」

 その言葉に、びくりと体を震わせた。

 恵美はわたしを見るとにやりと微笑んだ。

 樹は唖然とした顔でわたしを見ている。

 わたしは彼女にはめられたのだ。

 わたしと樹の関係が目に見えて変わったのを感じ取り、先手を打ってきたのだろう。

わたしは樹を弟だと言った。それは真実だ。わたしたちはお互いの気持ちを一度も確認し合っていないのだ。