わたしは反応に困りながらもあいまいに微笑んだ。

「どうかしたの? そろそろホームルームが始まるから、教室に戻ったほうがいいよ」

「今日の放課後、時間ありますか?」

「忙しくはないけど、何かあるの?」

 時間があると言えなかったのは、樹と帰るのが恒例行事になってたためだ。

 彼女はほっとしたような笑みを浮かべる。

「今日の放課後、四時過ぎに図書館棟の近くまで来てください」

「放課後? 昼休みじゃダメなの?」

「はい。どうしてもお願いします」

 わたしは首を傾げながらも、頷いた。

 放課後、樹が迎えに来たら待っていてもらおう。

 そんなに時間もかからないだろうと思ったためだ。

「わたし、見ちゃったんですよ。花火大会の日に」

「何を?」

「さあ。それは先輩たちのほうが知っているんじゃないですか? でもお友達や家族が知ったらびっくりするでしょうね」

 手をつないでいたことだろうか。それともキスをしていたことだろうか。

 幸せな思いでが頭の中でぐるぐるとかきまぜられ、真っ黒になる。

 彼女は含みのある笑みを浮かべると、そのまま階段のほうに歩いていった。